汽車道午前12時

汽車道を桜木方面にむかう。午前12時。
歩く人々は、概ねカップル。暗がりでも微笑みあう表情がみてとれる。
ひとり歩きの私は、レイトで観た映画の余韻にひたりながら、てくてくと歩く。

前方にみえたカップル。赤いハーフコートが目出つ。2人寄り添って歩いている。はずなのだが。
なぜか、二人の間が少しづつ開いていく。歩みは止めていないし、同じ方向を向いているから、喧嘩をしているわけでもあるまいに。その不自然な距離は、とうとうひと1人分くらいになった。
彼らは、依然歩き続けている。ただ、ずいぶんと速度が落ちた。ますますもってわからない。

汽車道の終わり頃で、私は彼らに追いついた。そして追い越す時、やっと見えたのだ。

彼と彼女は、ひと1人分のスペースを隔てて、携帯電話でお互い別の人と会話していたのだった。

これだけ携帯電話が普及した今となっては、別によくある風景なのかもしれない。
ふたりの時間は、いとも簡単に侵略されうるし、またそれを受け入れるふたり。

その1人分のスペースに、お互いの電話の相手が居るように思えた。

汽車道、というのは横浜桜木町にある、昔線路だったところらしいです(うろおぼえ)。今は、海の上に道ができているような風情です。道の両端にはイルミネーションが光り、左右にみなとみらいの高層ビル群やらがみえます。観光スポット、なのかもしれない。